中日新聞 2017年9月15日 紙面◆部活動の暗部を伝えるのは使命
教育界や社会を挑発するかのように、金髪を貫く研究者が出した新著のタイトルは「ブラック部活動」。柔道など子どもの事故防止をテーマに研究してきた名古屋大の内田良准教授が、次に目を向けたのは部活指導の負担の重さに苦しむ教師たちだ。タイトルは刺激的だが、実は副題にこそ著者の思いが詰まっている。
―新著の「ブラック部活動」ですが、随分挑発的なタイトルですね。
本当は、僕はこのタイトルに「ブラック部活動?」と「?」を入れたかった。部活をブラックだと言い切るのは正直怖かった。だって、当然ながらすべての部活がブラックなわけではないですから。でもタイトルを考えた東洋館出版社の編集者・大竹裕章さんに意見を言ったら、世間の注目を集めて社会を動かすためには、刺激的なタイトルのほうが効果的だと言われ、自分もその戦略に乗って「?」を消すことにした。
代わりに副題を工夫しました。それで付けたのが「子どもと先生の苦しみに向き合う」というサブタイトル。この副題にこそ僕の思いを込めました。
もともと僕は柔道など子どもの事故を研究してきました。学校の部活や授業で、一九八三年度以降、柔道では百二十人以上の子どもが亡くなっています。そのうち多くの子が初心者の一年生で、頭部を打ちやすい大外刈りを掛けられているという共通点がある。注意点を知っていれば事故は防げるはず。でも自分が警鐘を鳴らしても、学校現場に声が行き届かずまた同じような事故が繰り返されてしまう。それが悔しかった。
子どもを事故から守るためには、学校の先生を味方に付ける必要があるのでは、と思いました。そこで教師側の立場から部活の問題に目を向けると、実は先生たちも部活で苦しんでいることが分かったのです。
―本では、教師の部活指導の負担の重さを指摘し、過熱する部活を問題視しています。
部活は教育課程外の活動です。つまり必ず生徒に教えるべきことではないし、教師には顧問を務める義務もありません。大学で教員免許を取得する教員養成課程でも、部活の指導方法を学ぶ授業はまったくない。それなのに多くの教師は半ば強制的に、やったこともない競技の部活顧問を担わされています。勤務時間終了後に部活を指導しても残業代は出ず、土日もわずかな手当しか出ません。
一方で、教師の部活の指導時間は、過去十年と比較しても大幅に増えています。部活は明らかに昔より過熱している。その原因の一つは、八〇年代の教育改革にあったと僕はみています。筆記試験以外で生徒を評価する機運が高まり、部活への関心が高まった。
生徒は大会でいい結果を出そうと一生懸命になり、教師も勝たせることに必死になる。保護者も部活に熱心な教師を高く評価します。学校には部活で好成績を収めたことを示す横断幕や、トロフィーが飾られる。教師も生徒も気づかないうちに、部活にハマっていくわけです。
そうして好成績を収めた学校や選手はマスコミで大きく取り上げられ、学校はアスリートの養成機関、部活はショーと化していく。
部活から生まれる感動ドラマを求める大人や、マスコミ報道も過熱の一因となっているのではないでしょうか。例えば高校野球で手を骨折しながら出場する選手を美談として取り上げるような記事もありますが、成長期の子どもの体を酷使することが果たして美談なのか。「感動は問題点を見えにくくする」「美談はけがを再生産させる」というのが僕の持論です。
―子どもにとっての「ブラック部活動」もありますね。部活で亡くなる子どもは、毎年後を絶ちません。
二〇一五年度に文部科学省が把握した体罰事案の約三割は部活で起きているというデータがあります。部活は非科学的な指導、暴力の温床にもなっている。象徴的なのが大分県の高校の剣道部員だった工藤剣太君の事案です。
剣太君は〇九年八月に剣道部の練習中に熱中症となり亡くなりました。顧問(当時)に「もう無理です」と訴えていたのに休むことも許されず暑い中で防具をつけたまま練習を続けさせられた。そればかりか、顧問は剣太君の体を蹴り、平手打ちなどの暴力まで加えた。ご遺族は顧問を刑事告訴しましたが、不起訴処分となり刑事責任を問うことはできず、今も顧問の賠償責任を追及し、民事裁判を闘い続けておられます。
僕たち研究者の本業は、データを基に論文を書くこと。現場からは一線を引き、情に流されるべきではないという共通認識が研究者の間にあります。僕も当初は客観的、中立的な立場を貫いて学校事故の問題を捉えるようにしていました。
でも剣太君のご遺族らに会って話を聞くと人としての葛藤が芽生え、抑えていた感情が決壊してあふれ出した。数字や論だけでは表せない感情を無視していいのか。研究者は怒りや悲しみを表現してはいけないのか。学校事故の被害者たちは、それほどまでに理不尽な立場に置かれてきたのです。たとえ研究者として失格だとバカにされてでも、伝えなくてはいけない現実がそこにあった。
―研究者でありながら、ネットで積極的に記事を書いてきましたね。
一四年から、ヤフーニュースに記事を書いています。一本目は柔道事故についてで、三年で約百二十本の記事を発表してきた。記事を書くのは、苦しんでいる人たちの声を届けなければ、と思うから。子どもを事故から守るために、自分が啓発を続けなければ、という使命感もある。
僕はどんなにいい記事を書いても、読んでほしい人に届かなければ零点だと思っています。だから教師に読んでほしい記事は、学校が休みの土日の朝六時ごろにネット配信する。今年の元日も肥大化する部活の問題点について書きました。
記事の公開後は、ツイッターで何度も告知します。やることは増える一方で正直、しんどくてやめたいと思ったこともあります。でも僕のところに、子どもや保護者、先生たちからどんどん情報が集まってくる。やっぱり、苦しんでいる人たちを放ってはおけないんです。「書いてくれてありがとう」という声が届くと幸せを感じますし。
―部活は今後、どう改革していけばいいですか。
運動部ばかりに目が行きがちですが、吹奏楽部など文化部でも長時間練習は問題になっています。もう部活の活動時間に上限規制を設けるしかありません。僕が未来展望図として描くのは「ゆとり部活動」。例えば「週三日まで」など、ここまでしかやってはいけないという条件を決める。大会やコンクールなどへの参加回数も減らし、勝利至上主義から脱却していく必要があります。
生徒の居場所としての部活を残しながらも、教師の長時間労働、過重負担を解消していくことは急務です。そのためには社会全体が「長時間練習したり、働いたりするのはいいことだ」という意識を変えていかねばなりません。
◆あなたに伝えたい
数字や論だけでは表せない感情を無視していいのか。研究者は怒りや悲しみを表現してはいけないのか。
<うちだ・りょう> 名古屋大准教授。専門は教育社会学。1976年、福井市生まれ。名大経済学部を卒業後、名大大学院教育発達科学研究科で児童虐待を研究。2012年度の中学校武道必修化を前に、死亡事故が多発していた柔道事故防止を啓発した。14年から年間約8500件の事故が起きていた組み体操事故の危険性も訴え、16年に文部科学省が注意喚起を促すなど大きな話題に。「ヤフーニュース」に啓発記事を書いており、15年に社会に影響を与えた書き手に贈られる第1回の「ヤフーオーサーアワード」を受賞した。著書に「『児童虐待』へのまなざし」(世界思想社)、「柔道事故」(河出書房新社)、「教育という病」(光文社新書)など。
◆インタビューを終えて
内田准教授に初めて会ったのは、二〇一二年。場所は国会だった。柔道事故の対策について答弁する文科相を、傍聴席からじっと見つめる姿が印象的だった。当時は茶髪だった。次に会ったのは、一五年。柔道事故の被害者らが開いた講演会で、重い後遺症が残った車いすの男性に目線を合わせ、しゃがみ込みながら話し掛けていた。髪は金色になっていた。
「外見ではなく、根拠のある話の中身で自分を見てほしいから」。それが金髪の理由だと、本人は言う。私には、自分に注目と批判を集め、弱者の声を代弁して社会を変えていくための「戦略」のように見える。
(細川暁子)
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2017年9月17日日曜日
内田良 名古屋大准教授
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