◆「練習したい」思いに応える
三重県四日市市の相好(そうごう)体操クラブ四日市教室。午後五時、本格的に体操に取り組む小中学生、高校生約四十人の練習が始まる。平日は月曜を除き四時間、土日は七時間練習をする。
峯野葵子(あこ)さんは、同市三滝中一年。「練習して、いい成績を残したい」と話す。八月に全国レベルの大会に出場。中学校単位で参加する七月の県大会には、中学の代表として出て跳馬で二位に。同中には体操や水泳、バドミントンなどの部はなく、それらの競技を校外の民間クラブで練習する生徒は学校に登録し、教員が引率して大会に出る。
体操部のある中学は三重県ではごく一部。中学生の多くは、民間のクラブで練習している。全国でも日本中学校体育連盟に体操競技として加盟する中学は、二〇一七年度、男子で三百九十四校、女子で五百十六校。それぞれ全校の4%、5%にあたる。
相好体操クラブ四日市教室の伊地知慶之ヘッドコーチ(29)は「指導者、設備、練習時間の確保が大変」と、民間クラブでの練習が中心になる背景を説明する。
部があっても、野球は学校外の硬式野球のクラブチームで腕を磨く中学生が多くいる。サッカーや水泳などでもそうだ。教員の多忙化解消のために部活の時間が制限される傾向にある中で、民間クラブが意欲のある生徒の受け皿になっている。教員の過重労働を調査研究する名古屋大の内田良准教授(教育社会学)は「本気で勝ちたい人は民間、そうでない人は部活動」と、すみ分けを提言する。ただ、民間のクラブは、部活以上に費用がかかる。クラブがない地域があるのも現実だ。
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部活の一部を地域クラブの活動に置き換える取り組みも進む。
愛知県豊橋市の豊岡中野球部。土曜の練習後、顧問の牧野晃大教諭(40)が話した。「明日はリーグ戦大会。雨はやむから試合をする心積もりで、よろしく」
この「よろしく」には、「明日は三人の野球部顧問がいないけれどよろしく」の意味も込められている。翌日の試合の指揮は、顧問とは別の指導者が執った。
同市は学校が「土日休み」になった二〇〇二年度、中学の日曜の部活をやめ、代わりに近隣住民が指導する地域クラブとして活動している。部の顧問は参加しない。生徒に地域との関わりを強めてもらうのが目的で、練習したい生徒の気持ちも満たし、教員の負担軽減にもつながっているという。
豊岡中野球部は部員二十三人全員がクラブにも参加する。野球部主将の平岩遼馬君(二年)は「指導者が多いから、実のあるアドバイスをたくさんいただける」とプラスに受け止める。
クラブ指導者の経験もある顧問の牧野教諭は「競技の指導歴が浅い顧問には、クラブ指導者の存在は心強い。私自身も日曜日に休んだり、生徒の試合観戦をしたりすることも許される。助かる」と話す。
野球やソフトテニスなど部活が校区単位のクラブに移行する競技もあれば、バスケのように校区単位と広域のクラブが併存する競技もある。
市教育委員会によると、クラブ指導者は競技経験者や元在校生の保護者など。原則無報酬だ。研修などで安全管理について学んでもらい、顧問とも連絡を密に取り合う。部活とクラブの連携はおおむね良好という。
岐阜県多治見市の中学では、平日午後五時以降と土日の部活をやめ、外部コーチが教えるクラブとして活動。教員の多忙化解消の面からも評価が高い。愛知県犬山市でも一部の部活が地域クラブになり、部活終了後に地域の大人から指導を受けている。
早稲田大スポーツ科学学術院の中澤篤史准教授(身体教育学)は、地域クラブとの二枚看板で活動する部活は多いとする一方で、「生徒がやりたい範囲を超えた活動量になっていないか注視が必要だ」と過熱化に警鐘を鳴らす。
日本のスポーツ・文化活動の裾野を支える部活。社会情勢を踏まえ、さまざまな姿に変化し続ける。
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