なぜ憲法九条改正が必要なのか、その切迫性は、やはり感じられない。それでも強引に改正しようとするのなら、内容ではなく、改正の実績づくりを優先した「改憲ありき」と批判されて当然だ。
憲法改正を「党是」としてきた自民党の近年の議論を振り返る。
野党当時の二〇一二年、現行憲法を全面改正する改憲草案を発表し、九条に関しては戦力不保持の二項を削除し、国防軍の保持を明記した。政権復帰を目指して支持層固めを意識した内容だ。
政権復帰後の安倍晋三首相は昨年五月、一項の戦争放棄と二項を残しつつ、自衛隊の存在を明記する案を提唱。東京五輪が行われる二〇年を「新しい憲法が施行される年にしたい」と語った。
党憲法改正推進本部は首相の意向を受け、衆参両院の憲法審査会に提示する党の改憲案を、三月二十五日の党大会までに取りまとめるよう議論を進めている。
石破茂元幹事長らは改憲草案通りの二項削除を主張しているが、二項を維持して自衛隊の存在を明記する首相案が優勢だという。
国会議員は憲法について大いに議論すべきではあるが、九条を改正しなければならない切迫した事情がどこにあるのか。
首相は「命を賭して任務を遂行する者の正当性を明確化することは国の安全の根幹に関わる」と主張するが、それだけでは改正を要する十分な理由にはなるまい。
歴代内閣は自衛隊を合憲とし、安倍内閣でも変わらない。「直ちに憲法改正しないと日本の安全保障が成り立たないという状況ではない」(井上義久公明党幹事長)との主張には説得力がある。
首相は、憲法に自衛隊の存在を明記しても「任務や権限に変更は生じない」と述べた。自衛隊を明記する改憲案が否決されても、合憲とする「政府の一貫した立場は変わらない」とも答弁している。
自衛隊の存在を憲法に明記してもしなくても、明記した改憲案が国民投票で承認されてもされなくても何も変わらないのなら、改憲案を発議し、国民投票にかける意味がどこにあるのか。
憲法は主権者たる国民が権力を律するためにある。改正しなければ国民に著しい不利益が生じる恐れがあり、国民から改正を求める意見が湧き上がる状況なら、国会は堂々と改憲論議をすればよい。
そうした状況でないにもかかわらず、権力の座にあるものが、やみくもに進めようとする改憲論議は、あまりにも空疎である。
中日社説
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