公立の小中学校で、非正規教員として任用される「常勤講師」が増えている。教員免許を持っており、担任や部活動顧問など正規教員と同じ仕事を担うが、給与面などの処遇が低く、不安定な身分で働いているのが現状だ。中部9県をみてみると、国が定める教員定数に占める割合が全国平均を大幅に超える県もある。
◆忙しさ正規教員並み…でも低い処遇
三重県の教員定数に占める常勤講師の割合を見つつ、自身の講師経験を話す男性=同県内で
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「中学校は本当に大変。二年しか続かなかった」。五十代前半の女性は四十代後半のとき、三重県内の公立中学校で常勤講師を務めた。県立高校では約二十年間、常勤などで勤務してきたが中学校は初めて。授業をしながら三年生の副担任をもち、入試の願書の書き方も指導した。
運動部の顧問として土日は生徒を試合に連れて行くこともあった。終わると学校に残ってテストを採点したり、二百冊ものノートを確認したり。平日は職員会議などで帰宅時間は午後九時ごろになった。幼子を抱え、夜中に翌日の晩ごはんを準備する日々を送った。
まさに「多忙」とされる正規教員と同じ。でも給与は月額二十万円台前半と、同年代の正規より大幅に少なかった。「仕事内容は変わらないのに、差があるのは腹立たしい。忙しすぎて教員採用試験の勉強の時間も取れない」と明かす。
常勤講師の任用は本来、緊急時などに限られ、期間は地方公務員法で一年以内とされる。ただ、実際は教育委員会が年度末に一度解雇して一~数日間の「空白期間」を設け、翌年度に再び任用するケースが多い。
空白があると期末勤勉手当が減額されるなど不利益を被る。給与も正規より低く抑えられている上、日本教職員組合によると、十~十五年勤務すると三十万円前後で頭打ちになる自治体が多い。そもそも、次年度も職があるかが分かるのは早くて二月末以降。雇用は安定しているとは言えない。
同県の公立小学校などで常勤講師を十年間務める男性は「来年度も仕事があるか、二月の終わりごろから携帯への連絡を待ち始める。毎年すごいストレス」。一緒に過ごす中で児童らの特徴が分かり、「こんな教育をしてあげたい」と思っても、次年度があるか不明なままでは腰を据えて取り組むのも難しい。「子どものためにも一年で学校をかわる常勤講師は多くない方が良い。正規教員をもっと採るべきだ」と強調する。
文部科学省の調べでは、公立小中学校の教員定数に占める常勤講師の割合は二〇一七年五月一日現在、全国で7・4%。人数は四万二千七百九十二人で、〇一年の約一・八倍に上る。都道府県別では沖縄(15・7%)が最も高く、中部地方は三重(12%)が五番目、長野(10%)が七番目の高さ=表。定数を正規教員で満たしているのは東京のみだった。
三重県教委の担当者は割合が高い理由について「〇五~一〇年に公務員数を減らす動きがあった。同時に、将来の児童生徒数は減る予測がなされ、正規教員の採用数を控えたため」と説明。一一年採用分からは正規採用を百人程度増やし、「改善している途中」と話す。
「臨時教職員制度の改善を求める全国連絡会」会長で、日本福祉大の山口正教授(教育行政)は「〇一年度以後、特に小中学校で非正規教員の増加が著しい。その背景としては、義務教育国庫負担制度の見直しや自治体の厳しい財政事情が影響している」と説明する。
非正規は正規と同様の職務と責任を担うが処遇に格差があるとした上で、山口教授は「非正規教員の勤務条件の改善は、安定的な教育や教員全体の多忙化解消にもつながる喫緊の課題」と指摘。昨年に改正地方公務員法(二〇年施行)が成立し、「今後は非正規公務員の処遇改善が問われていく。自治体には職務に見合った非正規任用制度の改善が、国には自治体で処遇を改善し正規に転換できる財政的保障が求められる」と話した。
2018年2月11日 中日朝刊
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