十八歳人口の減少への危機感は、地方の大学ほど強い。もともと人口が少なく、受験生の都市部への流出も激しいからだ。地方の多くの国立大は地域との連携を生き残り策として重視し、地域の発展や研究の広がりが期待されるが、従来の研究との両立など課題もある。
一月下旬、小雪がちらつく三重県伊賀市のホテルに、大学教員や企業関係者ら約百人が集まった。地元企業との共同研究を進めるために三重大が開いたセミナー。「イノベーションを起こすことが社会的に期待されている。ぜひ三重大の先生方を使って」。鶴岡信治副学長(63)が呼び掛けた。
三重県は大学進学時の流入・流出率がマイナス30・2%で、中部九県で最も低い。三重大は、伊賀や東紀州など地域ごとに拠点を設け、地元企業との共同研究を進め、中学や高校の教育にも協力。取り組みを地元の高校などでもPRし、受験生獲得につなげたい考えだ。
県内中小企業との共同研究は五十九件で全国三位。「共同研究を増やして、地元企業の技術レベルを上げたい。県内産業が活性化し、学生が地元で働きたいと思わないと、県外流出は止まらない。長期戦だ」と鶴岡副学長。卒業生の地元就職率は現在32・9%。二〇一九年度の目標は43%だ。
大学教育ジャーナリストの木村誠さん(73)は「国立大の使命はもともと教育と研究だったが、最近は六割以上の国立大で地域貢献も掲げるようになった」と話す。国は五年前から大学を拠点に地方創生を促す事業を始め、計約百七十七億円を支援している。
富山大は、地元進学率や卒業時の県内定着率を上げるため地域リーダーの育成に取り組む。今春、土木系の人材を求める地元の声も踏まえ、都市デザイン学部を新設する。神川康子副学長(65)は「地方の大学にとって研究は重要だが、研究だけでは生き残れない。地域や社会に貢献する研究を心掛け、学生には地域の課題に取り組む中で力を付け社会に出てほしい」と話す。
岐阜大は一九年度入学者向けから、教育学部で新たな推薦入試「ぎふ清流入試」を始める。面接などで卒業後に県内の教育現場で働く意志があるかを確認。地域に根差した教員の養成と確保を目指す。
ただ、〇四年の独立行政法人化以降、国立大の経営は、その根幹を支える国の運営費交付金が十三年間で約千四百億円減らされるなど厳しい。現場からは、地域と連携する重要性を理解しつつ、困惑する声も聞こえる。企業の受託研究を手掛ける国立大准教授は「企業から研究費をもらえ、ありがたい。研究が広がるチャンスもあり、企業からの相談は断らないようにしているが、自分の研究は犠牲になっているかも」と苦笑。「企業からの相談や実験が増えて本来の研究の時間が減った」と明かす国立大教授もいる。
別の教授は「運営費交付金が減り教員一人あたりの研究・教育費は二十年前の半分以下。教員の数も減る中で、研究レベルも維持しながら、地域貢献も入試改革も求められる。われわれはスーパーマンではない。大学側もうまく現場を管理できていない」と憤る。
和歌山大の前学長で国立大学協会の山本健慈専務理事(69)は「産学連携はかなり成熟してきたが、国立大の地域貢献は大学側のマネジメントや教員の意識も含め、まだ発展途上。地域のさまざまな課題を察知する教員や、大学の研究内容に精通する行政マンなど双方をつなげる人材も必要だ。地域と連携した良い研究や教育ができれば学生も集まり、地域に愛着を持つ若者が育ち、流出阻止につながる」と期待を込めた。
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