2018年2月10日土曜日

知識偏重見直し「素質」伸ばす 発展続く中国の教育現場視察


 世界2位の経済大国として発展を続ける中国。ドローン(小型無人機)や通信などのIT分野では、世界に名だたる企業も少なくない。中国政府が主催した日中友好交流事業で昨年12月に訪中し、急成長を遂げた国の教育現場を視察した。
 北京市北部の市立北京育翔小学校。全校児童三千七百六十人のマンモス校では放課後、四~六年の児童が週一、二回のクラブ活動に没頭していた。日本の部活動に近いが、クラブ数は百ほどある。
 運動場では野球、サッカー、バスケットボール、武術、教室では水墨画、二胡(にこ)や古筝(こそう)の演奏など伝統文化に親しむ子の姿もあった。自作のロボットアームを操作していた「創造力クラブ」の児童らに話を聞くと、「設計とコーディネートが学べる」「能力向上につながる」と将来を意識した反応が返ってきた。
 活動費は国が負担。学外の有力講師を招くこともあり、陳永珍(ちんえいちん)校長は「技術系のクラブの人気が高い。活動に親しみながら潜在能力、素養を磨いてほしい」と説明する。
 こうした教育は、より主体的、実践的に学ぶ「素質教育」の一環で、国際社会で通用する高い人間性を備えることを目指す。長らく知識偏重の詰め込み型を主としてきた中国が、改革開放政策で外資の進出が進んだ一九九〇年代以降、導入し、力を注いできた。
 上海市の南西約二百キロにある浙江省都の杭州市。ネット通販大手「アリババ」などIT企業の集積地として名高い九百万人都市だ。市青少年センターは、週末や長期休暇に近隣の子どもたちが集まる総合塾だ。
 学校で十分に経験できないスポーツ、ものづくり、文化活動など計百五十の講座が開かれ、昨年は二~十八歳の延べ二十七万人が通った。全国に広がるセンターの先駆けとして約五十年の歴史がある。
 創作、発明分野に力を入れ、レゴブロックを使ったロボット作りは、約二十年前からある人気講座。自作のラジコン飛行機作りもあった。最新鋭の3Dプリンターは十六台あり、六歳から使える。黄建明(こうけんめい)主任は「素質教育の一大拠点と自負します。今後は人工知能(AI)の時代。特にロボットに関する基礎教育は、授業を補う重要な学びです」。

 ここは二〇一五年末に完成した学内博物館「朝暉青春健康倶楽部(クラブ)」。奥には、男女の体の変化、胎児の成長、違法薬物など、思春期の若者が興味を持つ内容を模型や拡張現実(AR)を使って解説するコーナーがあった。
 性教育を素質教育の一つと位置付けるのは、杭州市立朝暉(ちょうき)中学校だ。「責任を取ると決める」「十分に安全?」-。入り口近くの壁には、性交時の注意を呼びかける言葉が並ぶ。
 張驪(ちょうり)副校長によると、中国では近年、性の知識不足を背景とするエイズウイルス(HIV)感染や十代の望まない妊娠が社会問題化。地域の性教育の充実のために施設を造ったという。呉林富(ごりんふ)校長は「生徒たちの素質教育の拠点です」と胸を張る。
 日本の文部科学省にあたる中国教育部基礎教育司の王岱(おうだい)副巡視員は、同国の教育ビジョンについて「教科書の勉強と並んで素質教育を進め、責任感、実践力、イノベーション(変革)力のある人を育てたい」と述べた。
 独自の経済圏「一帯一路」で世界進出を狙う中国。国際社会で活躍する人材育成を、幼い才能の芽を刺激する素質教育が支える。

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