「加藤さんは死んだ」デマ 本人が怒りのチラシ2千枚
朝日新聞 夕刊
新型コロナウイルスの感染者が増える中、各地でデマも相次いでいる。愛知県瀬戸市のスポーツ用品店と喫茶店は「感染者が出た」とのうわさを流され、懸命に打ち消している。不要不急の外出自粛要請も出ている中、客足は戻らない。
「デマに本当に困っています」
こんな貼り紙を店頭に出したのは、瀬戸市緑町の加藤スポーツ店。経営する加藤徳太郎さん(70)がうわさに気づいたのは4月はじめだった。「防護服の人が消毒に入ったのか」「体は大丈夫か」とあちこちから聞かれた。「妻も感染した」とも。同市では3月28日に初めて60代男性の感染が確認され、翌日にその家族の感染も明らかになり、加藤さん夫婦と目されたらしい。
うわさの出どころは分からず、「加藤さんは死んだ」「近所の医院や別の店も消毒した」と話はエスカレート。客の子どもたちの間でもSNSなどで話題になり、孫のドッジボールを買った女性から「孫にうつらないか」と確かめられた。
19日に「緊急告知!!」と題し「全くのデマです」と大書したチラシをレジに貼り、2千枚を新聞折り込みで配布したが、来店客は日に1、2人と以前の1割に減ってしまった。23日から自主休業した加藤さんだが、「死んだ、なんてひどい」。憤りは収まらない。
コメダも被害に
数キロ離れた「コメダ珈琲店瀬戸山口店」もうわさをたてられた。オーナーの伊藤哲也さん(62)が気づいたのは10日ごろ。
政府が東京など7都府県に緊急事態宣言を出し、愛知県も独自の緊急事態宣言をして緊迫感が一気に高まったころ。1日に施行された改正健康増進法で屋内が原則全面禁煙となったことを受け、3月末から4日間休業して改装したのが「消毒のための休業」と勘違いされたらしい。
アルバイトの学生から「『バイト先に感染者が出たのか』と大学から聞かれた」と相談され、大学に事情を説明した。地域住民から問い合わせがあったといい、ピリピリした雰囲気を実感した。
伊藤さんは店の入り口に「根拠の無いデマ・噂(うわさ)話に振り回されません様にお願いします」などと書いたチラシを張り出した。加藤さんの苦境も知って連絡を取り合っており、加藤スポーツ店のチラシも並べた。だが客は半減した。市内の別の喫茶店もうわさをたてられたと聞いた。
市内の感染者は22日までに確認された5人。市は県データをもとにホームページで公表しているが、県が出すのは性別と年代、居住地、感染経過まで。これだけでは加藤さんらの「無関係」は証明しにくい。だが、市危機管理課は「感染者が特定されて人権問題になってもいけない」とさらなる情報開示には慎重だ。(伊藤智章)